ヒトの常在菌のほとんどは、酸素のない環境で生育する「偏性嫌気性菌」で培養が難しく、また、膨大な数の細菌で構成される複雑な生態系であることなどから研究はなかなか進んでいませんでした。

しかし近年、遺伝子解析技術が急速に進み、次世代シーケンサーの登場により常在菌のメタゲノム解析が可能となり、菌種の同定や遺伝子発現解析、機能解析などの技術が進歩したことで、腸内細菌を始めとするヒト常在菌がさまざまな疾患の発症や健康状態、ヒトの寿命にまで関与することが明らかになってきました。

例えば、腸内細菌叢は、ヒトが消化できない食物を分解して、ヒトが吸収可能な栄養素に変換し、免疫系を刺激して有害な細菌からカラダを守っています。腸内細菌叢が有益な働きを発揮し続けるためには、腸内細菌叢のうち善玉菌を優勢とするバランスを保ち続けることが重要です。

悪玉菌は酸性環境を嫌い、アルカリ性環境を好む性質があります。善玉菌が減り、短鎖脂肪酸が十分に産生されない状態になると、腸内はアルカリ性に傾きます。一方、善玉菌が増え、腸内が酸性に傾くと悪玉菌が減ります。また、日和見菌は、善玉菌が優勢であれば善玉菌の動きに同調しますが、ひとたび悪玉菌が優勢になると、悪玉菌と同じようにタンパク質などを分解して腐敗させ、有害物質を産生するようになります。

このように腸内で産生された有害物質が腸管に吸収されると、カラダ全体の臓器にダメージを与え、さまざまな疾患の発症の原因となったり、老化を進めたりすると考えられています。

例えば、腸内細菌叢の乱れは、肥満や糖尿病、メタボリックシンドローム、動脈硬化、アレルギーや炎症性腸疾患、大腸がん、うつや自閉スペクトラム症、認知症など、幅広い疾患と関連することが報告されています。これらの疾患の患者の腸内細菌叢をみると、菌種や組成が健康なヒトとは異なることも分かっています。

また、膣内にも、腸内と同じようにさまざまな常在菌が生息し、膣内細菌叢を形成しています。膣内の常在菌の多くは乳酸桿菌(ラクトバチルス属)が占めており、膣粘膜上皮細胞内にあるグリコーゲンを分解して乳酸を産生し、膣内を酸性(pH 5.0以下)に保つことで雑菌の侵入を防いでいると考えられています。
このバランスが崩れると常在の病原菌が増殖したり、外部から病原菌が侵入したりして、カンジダ菌による炎症や細菌性腟症などの発症につながります。

これらのことから、善玉菌を優勢な状態に保つためにも、腸内や膣内の環境を酸性に保ち悪玉菌が増殖しにくいように環境を整えることが大切です。

常在菌叢のバランスが崩れる原因としては、抗菌薬の使用や免疫機能の低下のほか、高脂肪の食事、不規則な生活、ストレスなどさまざまな要因が指摘されています。普段から栄養バランスがとれた食事、規則的な生活、適度な運動を心がけ、ストレスをためないことが大切です。

【参考資料】
厚生労働省e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
 
光岡知足「常在菌の働き、役割」サルコイドーシス/肉芽腫性疾患/22 巻 (2002) 1 号/書誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssog1999/22/1/22_1_3/_article/-char/ja/
 
光岡知足著「人の健康は腸内細菌で決まる!―善玉菌と悪玉菌を科学する―」、技術評論社、2011.