私たちヒトのカラダには膨大な数の微生物が生息しています。例えば、腸内には約1,000種類以上、100兆個を超える細菌が住み着いており、重さにすると1~2kgにもなると言われています。
人体を構成する細胞数は約37兆個と推定されており、これを遥かに上回る数の微生物がヒトと共生関係にあります。このような細菌を「常在菌」と呼びます。

※Bianconi E, at al. An estimation of the number of cells in the human body. Ann Hum Biol 2013; 40(6): 463-471.

常在菌は、ヒトの皮膚、口腔、鼻腔、上気道、呼吸器系、胃や腸管などの消化器系、さらに子宮や膣、膀胱、尿道などの泌尿器系にも広く生息しています。菌の種類や数、構成比は部位によって異なり、各部位で特徴的な細胞の集団(常在菌叢)を形成し、宿主の健康状態や疾患の発症などに深く関わっています。

例えば、皮膚の常在菌には外部の刺激から肌を守ったり、皮膚のバリア機能を保ったりする働きがあり、膣内の常在菌は感染防御に役立っています。

常在菌の大半を占めているのは、酸素の存在下では生存できない、あるいは生存しにくい「嫌気性菌」とされています。そのため、特に酸素が少なく、栄養豊富な腸管の環境は細菌にとって好ましく、常在菌の90%は胃や腸管などの消化管に生息し、「腸内細菌叢(腸内フローラ)」を形成しています。

近年では、こうした微生物の集団は「マイクロバイオータ(microbiota)」、マイクロバイオータのゲノムなど広い概念の総称は「マイクロバイオーム(microbiome)」とも呼ばれています。

●「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」とは?

常在菌は大きく、「善玉菌」「悪玉菌」と、どちらにも属さず優勢な方に味方する「日和見菌」の3つのタイプに分かれています。
これらの菌は互いに密接に関わり合いながらバランスを保っています。

常在菌のうち9割を占める腸内細菌のうち、日和見菌が最も数が多く、次に多いのは善玉菌で、悪玉菌は少数です。理想のバランスは「善玉菌2・悪玉菌1・日和見菌7」だと言われています。

ここでは、腸内細菌を例に、それぞれの菌の役割について説明します。

「善玉菌」の働き

善玉菌は、ヒトのカラダに有益な働きをする細菌です。

(例)ビフィズス菌、乳酸菌(乳酸桿菌ラクトバチルス)、フェカリス菌 など
(働き)
・糖分や食物繊維を分解して、乳酸や酢酸など短鎖脂肪酸と呼ばれる有益な物質を産生し(=発酵)、その結果、腸内を酸性に保つことで悪玉菌の増殖を抑える。外来菌の侵入や増殖を防ぐ。
・短鎖脂肪酸は腸管を刺激し、腸の蠕動運動を促す。
・腸内でビタミン(B1、B2、B6、B12、K、ニコチン酸、葉酸)やタンパクを合成する。
・食物の消化・吸収を助ける。
・免疫機能を高め、生体調整のために働く。

善玉菌の代表格、乳酸菌とビフィズス菌の違いは?

乳酸菌は、通性嫌気性菌で、酸素があっても無くても生育できる性質を持っています。
発酵作用によって糖類を分解して「乳酸」を生成します。
ラクトバチルス、ラクトコッカスなどの種類があり、2022年現在26属400種以上が発見されています。ブルガリア菌、カゼイ菌、ガセリ菌、サーモフィラスラス菌などが代表的な菌として知られています。

ラクトバチルス(乳酸桿菌)は女性の膣内に生息する常在菌の8~9割を占め、グリコーゲンを分解して乳酸を酸性し、膣内を酸性に保つことで雑菌の侵入を防ぐことで膣内の「自浄作用」に貢献しています。

一方、ビフィズス菌は偏性嫌気性菌で、酸素があると生きていけない性質を持っています。
発酵作用によって糖類を分解して「乳酸」と「酢酸」を産生します。
ヒトの腸内に最も多く生息する善玉菌です。乳酸を産生することから乳酸菌の一種ですが、乳酸菌よりも生息する数が多く、生息場所や形状も異なるため、一般的には乳酸菌とは区別されます。
2022年現在30~40種が発見されていますが、ヒトの腸内からは6~7種類が分離されています。

乳酸菌は、ヒトの腸内だけでなく自然界にも広く生息しており、ヨーグルトやチーズ、味噌、漬物などの発酵食品にも利用されています。
腸内で短鎖脂肪酸を産生することにより腸内環境を酸性にし、悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を整えるほか、コレステロール低下、免疫機能の向上、がん予防などさまざまな働きがあると言われています。

「悪玉菌」の働き

ヒトのカラダにとって望ましくない影響を与える細菌は「悪玉菌」と呼ばれています。
悪玉菌が増えると腸内細菌叢のバランスが崩れ、便秘や肌荒れなどのほか、生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患を引き起こします。老化とのかかわりも指摘されています。

(例)ウェルシュ菌、大腸菌(毒性株)、黄色ブドウ球菌 など
(働き)
タンパク質やアミノ酸などを分解し、カラダにとって有害な硫化水素やアンモニアなどの有害物質や発がん物質、細菌毒素などを産生します。

「日和見菌」の働き

ヒトのカラダの状態によって、有用にも有害にも働く細菌です。善玉菌、悪玉菌のうち、優勢な菌と同じ働きをするとされ、何らかの要因で抵抗力が低下すると悪玉菌のようにヒトのカラダに悪影響を及ぼします。腸管以外の臓器に侵入して日和見感染症を引き起こすこともあります。

(例)バクテロイデス、ユウバクテリウム、連鎖球菌、大腸菌(無毒株) など
(働き)
善玉菌、悪玉菌のうち優勢な菌の動きに同調して働く。

●生菌・死菌とは?

文字通り、生菌は生きた菌のことを、死菌は死んだ菌を指します。生菌は「プロバイオティクス」、死菌は「バイオジェニックス」とも呼びます。
プロバイオティクスの生きたビフィズス菌や乳酸菌などは、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆などの食品に含まれています。

生菌は熱や胃酸に弱く、直接摂取しても、胃酸や胆汁などの影響で死菌となり、生きたまま腸に届くのは難しく、腸内に生きたまま届き、ある一定期間は生きていたとしても棲み着くことはないとされています。
腸に届く途中で胃酸などの影響で死菌となっても、もともと腸内に存在している善玉菌を活性化させる働きのあることが分かっています。

また、加熱殺菌された死菌は、熱や胃酸、胆汁の影響を受けにくいという利点があることが知られています。死菌であっても生菌と同じく整腸効果や感染防御、免疫を高める働きのあることが分かっています。菌の種類によっては、殺菌加工すると効果が高まることが期待できるものもあります。

【参考資料】
厚生労働省e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
 
光岡知足. 常在菌の働き、役割. サルコイドーシス/肉芽腫性疾患2002; 22(1): 3-12.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssog1999/22/1/22_1_3/_article/-char/ja/
 
平山和宏. 腸内細菌叢の基礎. モダンメディア2014; 60(10): 307-311.
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1410_03.pdf
 
光岡知足著「人の健康は腸内細菌で決まる!―善玉菌と悪玉菌を科学する―」、技術評論社、2011.