女性の健康×菌×妊娠準備期
女性の正常な腟内にはさまざまな常在菌が生息し、腟内細菌叢(フローラ)を形成しています。常在菌のほとんどは乳酸桿菌(ラクトバチルス属)と呼ばれる善玉菌で、グリコーゲンを分解して乳酸を産生し、病原性の細菌が増殖しにくい酸性環境を維持することで雑菌の侵入を防ぎ、膣内環境を良好に保っています。
最近では、子宮内にも腟内由来の善玉菌が存在していることがわかっています※1
しかし、何らかの理由で腟内細菌叢のバランスが崩れると乳酸桿菌が減り、大腸菌やブドウ球菌などの菌が増殖してしまいます。
増殖したこれらの病原性細菌は子宮や卵管、骨盤内へ上行感染し、子宮内膜炎や卵管炎、骨盤腹膜炎などを引き起こし、妊婦であれば流産や早産の原因になり、さらには不妊症にも関与するといわれています※2
また、子宮内細菌叢のラクトバチルス属の占有率が高いと妊娠しやすいという研究結果が報告されています。米国スタンフォード大学の研究グループが子宮内細菌叢のバランスと体外受精の成功率との関係を調べたところ、ラクトバチルス属の占有率が90%以上だった女性では、90%未満だった女性と比べて体外受精の着床率、妊娠率、継続妊娠率、出産率がいずれも高いという結果が得られました※3。
日本においても、不妊症の女性47人の子宮内細菌叢を調べたところ、約半数の女性はラクトバチルス属の占有率が90%未満であったという報告があります※4。
そして90%未満であった女性のうち9人に抗菌薬、生菌を含むプロバイオティクスおよびプレバイオティクスを投与したところ、全員占有率が90%以上となり、9人中5人が妊娠に成功しました※4。
まだ例数は少ないのですが介入の効果を示唆しており、今後の研究の進展が待たれます。
腟内や子宮内の腸内細菌叢のバランスを維持することは細菌性膣症などの予防につながることから女性が健やかな日常生活を送る上でも重要ですが、ここにお示ししたように妊娠のしやすさにとっても影響を与えるとする知見が蓄積されてきています。
最近では、子宮内腔液を採取し、DNAを解析することで子宮内細菌叢を構成する菌の種類や割合を調べられるようになり、検査する方も少しずつですが増えてきています。
さらに膣内環境を良好に保つた
めの選択肢も広がりつつあります。
※1 Franasiak JM, et al. Endometrial microbiome at the time of embryo transfer: next-generation sequencing of the 16S ribosomal subunit. J Assist Reprod Genet 2016; 33(1): 129-136.
※2 日本性感染症学会編「性感染症 診断・治療ガイドライン2020」、診断と治療社、2020.
※3 Moreno I, et al. Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure. Am J Obstet Gynecol 2016; 215(6): 684-703
※4 Kyono K, et al. A pilot study and case reports on endometrial microbiota and pregnancy outcome: An analysis using 16S rRNA gene sequencing among IVF patients, and trial therapeutic intervention for dysbiotic endometrium. Reprod Med Biol 2018; 18(1): 72-82.