本研究所では「スーパー大麦(Himalaya292)」を研究対象として、ヒト試験による整腸効果、睡眠改善、抗肥満効果などの論文報告を行っています。スーパー大麦はオーストラリアの国家的研究機関が国民の健康を守るために開発した機能性大麦です。多種の水溶性食物繊維とレジスタントスターチが含まれていることが特徴で、総食物繊維量は一般大麦の2倍以上です。スーパー大麦に含まれるそれぞれ発酵速度の異なる食物繊維は大腸の入り口から奥まで異なる部位で発酵することで短鎖脂肪酸を産生し、大腸全体の環境を整えます。

日本人は食物繊維不足が深刻。効率的に摂取するなら「野菜」より「穀物」

大腸活ラボの記事でもご説明した通り、全身の健康には腸内環境が深く影響しており、大腸劣化を引き起こさないためには食物繊維を十分摂って、大腸内で善玉菌に短鎖脂肪酸を作り出してもらう必要があります。食物繊維の重要性はますます広く知られるようになり、5年ぶりに見直された「日本人の食事摂取基準」(2020年版、厚生労働省)で、成人(18-64歳)男性の食物繊維摂取目標量が1日20gから21g以上へと引き上げられることになりました。また今回の改定で、子どもの頃の食習慣が成人後の健康状態に影響する可能性があることから、初めて3~5歳の食物繊維摂取目標量も示されます。

食物繊維といえば多くの方が野菜を思い浮かべますが、野菜だけで目標量を満たすことはなかなかできません。健康増進法に基づき「健康日本21」が掲げられている野菜摂取の目標値は350gですが、20歳以上の成人の野菜摂取量平均値は280.5gです(注釈1)。また、摂取している野菜に含まれる食物繊維量は5.4g、その内訳は不溶性食物繊維3.9g、水溶性食物繊維1.5gと不溶性食物繊維が中心です。(注釈1)つまり、野菜も不足しているだけでなく、野菜ばかり食べていても十分な食物繊維を摂ることができないということです。一方で、穀物は野菜より多くの食物繊維を含んでいるものもあり、比較的少量で効率的に食物繊維を摂取できます。毎日の食事に食物繊維の多く含まれる穀物をプラスすることで食物繊維不足は解消できるのです。

注釈1:「令和元年国民健康・栄養調査」(厚生労働省)

出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)

食物繊維を豊富に含む“カラダに良い炭水化物”を選ぼう。選ぶなら断然「大麦」が良い!

炭水化物=糖質と思われている方もいるかもしれませんが、炭水化物のすべてが私たちを太らせる糖質というわけではありません。炭水化物は小腸で吸収されやすくエネルギーになる「糖質」と、善玉菌のエサになったり、便の量を増やすなどして腸内環境を整える「食物繊維」とでできています。炭水化物はその種類によって含んでいる食物繊維の量が異なるので、食物繊維を多く含む炭水化物を選んで食べることが必要です。例えば白米は玄米の表面を削ったもの(精米したもの)で、削った部分に食物繊維が含まれているため、白米自体にはほとんど食物繊維が含まれておらず糖質が多くなっています。一方で大麦は、他の穀物や野菜と比較してもトップクラスに食物繊維を多く含み、その量はごぼうの2.1倍、玄米の4.1倍、サツマイモの4.4倍です(大麦:一般的な大麦(押麦)、100gあたりの食物繊維量を比較)。さらに、食物繊維量が多いだけでなく腸内環境を整えるために重要な水溶性食物繊維も多く含んでいます。大麦の研究も広く行われており、大麦に含まれるβ-グルカンがコレステロールを低減したり、食後血糖値の上昇を抑えることなど様々な効果が報告されています※B-1, ※B-2。昔から食べられている大麦ですが、今大麦の魅力に再び注目が集まっています※B-3

オーストラリアの国家的研究機関が開発「スーパー大麦」!

大麦の中でも、研究者の間で注目されているのが「スーパー大麦」。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)が国民の健康を食事で守ろうと、1990年後半から10年に及ぶ品種改良を重ね、非遺伝子組み換えで誕生させました※B-4。一般的な大麦はβ-グルカンを多く含むことが知られていますが、スーパー大麦はその他にもフルクタンやレジスタントスターチ、アラビノキシランなどの食物繊維を含むように品種改良されていることが特徴です。また、総食物繊維量は食品の中でもトップクラスに食物繊維が多いと言われる一般大麦のさらに2倍以上です※B-5。フルクタン、β-グルカン、アラビノキシランは水溶性食物繊維で、レジスタントスターチは不溶性でありながら腸内細菌のエサになるという水溶性食物繊維としての機能も併せ持っています。これらの食物繊維はいずれも善玉菌のエサとなり腸内環境を整え、大腸劣化を予防します。

オーストラリア連邦科学産業研究機構が開発したスーパー大麦
スーパー大麦:日本食品分析センター分析値
その他出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
日本食品分析センターにおける分析値
白米はいずれも検出限界以下
レジスタントスターチは乾燥重量当たり

多種類の食物繊維がカギ! 3段階で働きかけて「大腸」の環境をトータルサポート

フルクタン、β-グルカン、レジスタントスターチの3種の食物繊維は構成要素や結合、分子量の大きさが違うために、腸内細菌のエサになりやすさが異なります。そのため、それぞれが大腸の異なる場所で、善玉菌のエサになり発酵します。フルクタンは大腸の入り口で、β-グルカンは中間で、レジスタントスターチは大腸のさらに奥まで届いて発酵し、短鎖脂肪酸をつくり出します。つまり、スーパー大麦は、3段階で働きかけて、大腸全体の環境を整えるのです※B-6

テイジン腸内フローラ研究所では、スーパー大麦を研究対象として様々な試験を行っており、例えば、整腸効果、睡眠改善、抗肥満効果などに関して論文報告を行っています※B-7~14


関連論文

※B-1) Ho H V, Sievenpiper J L, Zurbau A, Blanco Mejia S, Jovanovski E, Au-Yeung F, et al. A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials of the effect of barley β-glucan on LDL-C, non-HDL-C and apoB for cardiovascular disease risk reduction(i-iv). Eur J Clin Nutr 2016; 70: 1239-1245.
※B-2) Tosh S M. Review of human studies investigating the post-prandial blood-glucose lowering ability of oat and barley food products. Eur J Clin Nutr 2013; 67: 310-7.
※B-3) Makki K, Deehan E C, Walter J, Bäckhed F. The impact of dietary fiber on gut microbiota in host health and disease. Cell Host Microbe 2018; 23: 705-715.
※B-4) Morell M K, Kosar‐Hashemi B, Cmiel M, Samuel M S, Chandler P, Rahman S, et al. Barley sex6 mutants lack starch synthase IIa activity and contain a starch with novel properties. Plant J 2003; 34: 173-185.
※B-5) Clarke B, Liang R, Morell M K, Bird A R, Jenkins C L D, Li Z. Gene expression in a starch synthase IIa mutant of barley: changes in the level of gene transcription and grain composition. Funct Integr Genomics 2008; 8: 211-221.
※B-6) Aoe S, Yamanaka C, Fuwa M, Tamiya T, Nakayama Y, Miyoshi T, et al. Effects of BARLEYmax and High-β-Glucan Barley Line on Short-Chain Fatty Acids Production and Microbiota From the Cecum to the Distal Colon in Rats. PLoS One 2019; 14: e0218118.
※B-7) Keogh J B, Lau C W H, Noakes M, Bowen J, Clifton P M. Effects of meals with high soluble fibre, high amylose barley variant on glucose, insulin, satiety and thermic effect of food in healthy lean women. Eur J Clin Nutr 2007; 61: 597-604.
※B-8) King R A, Noakes M, Bird A R, Morell M K, Topping D L. An extruded breakfast cereal made from a high amylose barley cultivar has a low glycemic index and lower plasma insulin response than one made from a standard barley. J Cereal Sci 2008; 48: 526-530.
※B-9) Bird A R, Vuaran M S, King R A, Noakes M, Keogh J, Morell M K, et al. Wholegrain foods made from a novel high-amylose barley variety (Himalaya 292) improve indices of bowel health in human subjects. Br J Nutr 2008; 99: 1032-40.
※B-10) 北薗英一, 妹脊和男, 松井輝明. 機能性大麦BARLEYmax (Tantangara) による整腸効果についてーランダム化二重盲検並行群間比較試験―. 薬理と治療 2016; 44: 1785-93.
※B-11) 西村文,北薗英一,妹脊和男,瓜田純久,松井輝明. 機能性大麦BARLEYmax(Tantangara)による整腸効果について-ランダム化二重盲検並行群間比較試験-. 薬理と治療 2017; 45: 1047-55.
※B-12) 北薗英一,西村文,妹脊和男,森田英利. 機能性大麦BARLEYmax(Tantangara) 経口摂取による睡眠改善効果について. 薬理と治療 2017; 45: 1351-7.
※B-13) 野村直生,西村文,三好孝則,北薗英一,森田英利,松井輝明. 機能性大麦BARLEYmax (Tantangara)の腸内細菌叢を介する抗肥満効果 -ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較法- 薬理と治療 2018; 46: 2099-110.

※B-14) Nomura N, Miyoshi T, Hamada Y, Kitazono E. Glycemic index of boiled BARLEYmax® in healthy Japanese subjects. J Cereal Sci 2020; 93: 102959.